育児休業中の社会保険料の免除が厳格化!健康保険・厚生年金法改正2022年10月1日施行【裏技あり】

育児休業中の社会保険料の免除が厳格化!健康保険・厚生年金法改正2022年10月1日施行【裏技あり】

2021年(令和3年)2月5日、「全世代対応型の社会保障制度」を構築するための健康保険法等の改正法案が、第204回国会に提出され、本国会で成立の見通しです。

この改正法案に盛り込まれた内容は人事労務に関連するものだけでも、傷病手当金の支給期間の通算化、任意継続被保険者制度の見直し、育児休業中の社会保険料の免除要件の見直し、保健事業における健診情報等の活用促進と多岐にわたっています。

今回は、この改正法案のうち、2022年(令和4年)10月1日より施行される「育児休業中の社会保険料の免除要件の見直し」について取り上げていきます。

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育児休業中の社会保険料の免除

育児休業中は、多くの企業で給料が無給となることが多いですが(令和元年度雇用均等基本調査によると85.1%の事業所が「金銭の支給なし」と回答)、休業による給料の減額や無給では社会保険の随時改定の対象にならないため、従業員は休業前の標準報酬月額に基づいた保険料を負担しなければなりません。

雇用保険から育児休業給付金を受給することはできますが、最大でも賃金の67%程度ですので、その中から社会保険料を納付するのは大きな負担です。

この負担を軽減するために、育児休業期間中の社会保険料を免除する制度として「育児休業等期間中の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の免除」制度があります。

この制度では、保険給付や将来の年金受給額算定においては、免除された保険料が全額支払われたものとして扱われるので、デメリットがないとされています。

さらに、給与だけでなく賞与から控除される保険料も対象となり、また、会社負担分も免除されます。

育児休業等期間中の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の免除

(出典:厚生労働省)

ポイント

育児休業制度は、育児・介護休業法に定められていますが、社会保険料の免除は、健康保険・厚生年金保険の制度として定められています。

そのため、本記事の2022年法改正は、健康保険法(第159条)及び厚生年金法(第81条の2)の2つの法律が対象としています。

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社会保険料が免除される要件

育児休業期間中の社会保険料が免除される期間は、「健康保険法」及び「厚生年金保険法」により、「育児休業を開始した日が含まれる月から終了した日の翌日が含まれる月の前月まで」と定められています。

社会保険料の免除対象となる休業期間の例

以下の2つの休業期間で比較してみます。

  • ①2020年8月26日から翌年6月29日が休業期間の場合:2020年8月から翌年5月の10ヵ月間が社会保険料の免除対象
  • ②2020年8月27日から翌年6月30日が休業期間の場合:2020年8月から翌年6月の11ヵ月間が社会保険料の免除対象

上記①②の違いは、6月29日の翌日(6月30日)が含まれる月の前月は5月で、6月30日の翌日(7月1日)が含まれる月の前月が6月であることです。

つまり、休業期間の終了日が月末であるかどうかがポイントです。

また、6月1日から6月29日が休業期間の場合は、「開始した日が含まれる月」が6月で、「終了した日の翌日が含まれる月の前月」が5月なので、免除される期間の前後が逆転しますが、この場合はどの月も対象になりません。

6月が免除対象となるためには、6月30日まで休業する必要があります。

育児休業中の免除期間

(サプラボ編集部作成)

育児休業期間1日でも社会保険料免除が可能

もし、6月30日(月末)の1日だけ育児休業した場合はどうなるでしょうか?

「育児休業を開始した日が含まれる月から終了した日の翌日が含まれる月の前月まで」の要件に当てはめると、「開始した日が含まれる月」が6月で、「終了した日の翌日が含まれる月の前月」も6月なので、6月分が免除対象となります。

育児休業は1日から取得することが可能なため、制度の仕組み上、6月30日にたった1日休業するだけで、6月分の社会保険料が全額免除に該当します(前述のとおり、育児休業は無給の企業が多いため、例え欠勤控除となっても1日分の給料が減額されるだけです)。

さらに、6月支給の賞与がある場合には、賞与から社会保険料は一切控除されないことになります。

一見、論理的には可能だけれど実際の運用では不可能ではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、健康保険法及び厚生年金法の制度の裏技として、実際に、月末に1日だけ育児休業を取得した方の社会保険料が免除された事例や、賞与分の免除を目的として支給月の月末に短期間の育児休業を取得し、社会保険料が免除されるケースが散見されたことから、このような制度の抜け穴を是正し公平性を確保することを目的として、今回、法改正されることになりました。

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健康保険法・厚生年金法の改正ポイント

今回の改正法案により、育児休業中の社会保険料の免除に関して、次の3つの要件に変更されます。

  • ① 育児休業を開始した日が含まれる月と終了する日の翌日が含まれる月が異なる場合は、育児休業を開始した日が含まれる月から終了した日の翌日が含まれる月の前月までが免除対象となる
  • ② 育児休業を開始した日が含まれる月から終了した日の翌日が含まれる月が同一月である場合は、育児休業日数が14日以上ある場合に限定される
  • ③ ②の場合に、育児休業の期間が1ヵ月以下の場合は、賞与についての社会保険料は免除されない。

※改正法は2022年10月1日施行予定です。

給与:月末を含まない場合は14日以上で社会保険料の免除対象

要件①は、これまでと同じ内容を月末を含む場合に限定したものですが、要件②が追加されたことにより、開始した日が含まれる月から終了した日の翌日が含まれる月が同一月である場合、給与の社会保険料が免除されるためには、最低でも休業期間が14日(2週間)必要となります。

また、改正後も月末を含まない場合は「育児休業を開始した日が含まれる月から終了した日の翌日が含まれる月の前月まで」が免除対象月というのは従前どおりですので、休業期間が14日未満だと、月末を含まなければ対象にはなりません

そのため、休業期間が6月18日から6月30日の13日間なら6月が免除対象となりますが、6月1日から6月13日の13日間や6月17日から6月29日の13日間では対象にならないことに注意が必要です。

月末を含まない場合は14日以上というのがポイントです。
なお、月末を含む場合の免除期間に変更はありませんので、給与については、月末1日だけ休業すればその月は免除対象になるというのは従前どおりです。

健康保険法

改正後の健康保険法第159条

育児休業等をしている被保険者(第百五十九条の三の規定の適用を受けている被保険者を除く。次項において同じ)が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める月の当該被保険者に関する保険料(その育児休業等の期間が一月以下である者については、標準報酬月額に係る保険料に限る。)は、徴収しない。
一 その育児休業等を開始した日の属する月とその育児休業等が終了する日の翌日が属する月とが異なる場合その育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの月
二 その育児休業等を開始した日の属する月とその育児休業等が終了する日の翌日が属する月とが同一であり、かつ、当該月における育児休業等の日数として厚生労働省令で定めるところにより計算した日数が十四日以上である場合当該月

賞与:1ヵ月超で社会保険料の免除対象

要件①のとおり、育児休業期間が月末を含む14日以上あったとしても、要件②により、育児休業期間が1ヵ月以下の場合は、賞与の社会保険料は免除対象になりません。

民法第140条(初日不算入の原則)や民法第143条(暦による期間の計算)の規定に従うと、「育児休業期間が1ヵ月」とは、休業の開始日の翌日が1日であればその月の末日まで、それ以外の場合は、休業開始日の翌日の応答日の前日(応答日がない場合はその月の末日)までとなります。

1ヵ月以下では免除されないので、賞与についてはプラス1日の休業期間が必要です。

例えば、育児休業5月31日から7月1日の場合は5月・6月の賞与が免除対象、育児休業6月10日から7月11日の場合は6月の賞与が免除対象となります。

但し、この「期間が1ヵ月以下」については、施行規則や省令等で別途数え方が示された際には、それに従うことになりますので、現時点では参考程度にしてください。

従業員からの質問への対応

月末の1日だけ育児休業すれば社会保険料の負担を軽減できる「らしい」ということは、人事労務の中でも意外と知られているかと思います。

この内容をどこかで耳にした奥様に強く促され、夫である男性従業員が賞与支給月の末日だけ育児休業したいと申し出た事例もあります。

また、今回の改正がニュース等で伝えられると一般的に見知る機会も多くなります。

社会保険料の額は少なくはないので、従業員から質問を受けた際に間違った説明をすると「人事の説明が間違ってたので免除にならなかった」「免除になるはずなのに社会保険料が控除されている」といったクレームになり兼ねません。

本来の制度趣旨に反する法の抜け穴をついた裏技みたいなものですので、このような育児休業の取得を会社が積極的に勧めるのは好ましくありませんが、従業員から相談を受けたときは、正確な内容を伝えられるようにしておきましょう。

なお、免除対象となる育児休業の申し出があった場合は、必ず会社が手続きすることになりますので、本来の制度趣旨に反するような育児休業があったとしても会社は手続きを断ることはできませんし、手続きを行ったとしても法律の範囲内での対応となりますので、お咎めを受けることはありません。

最後に、「月末が休日の場合、その日に育児休業できるのか?」との質問を従業員から受けた場合、休日は就業日ではないため育児休業はできませんので、間違った回答をされないよう、十分ご留意ください。

 

まとめ

今回は、育児休業の社会保険料免除に関する技術的な内容について取り上げました。

従業員からの問い合わせがあった際に誤った対応をしないよう、きちんと基礎的な知識を身に付けておくことが大事です。

人事労務担当者の育成でお困りの際には、お気軽にご連絡ください。

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