人事労務実務に役立つ労務管理の基本|賃金の支払い、労働条件の変更、配置転換・出向について簡単解説!

人事労務実務に役立つ労務管理の基本|賃金の支払い、労働条件の変更、配置転換・出向について簡単解説!

経営者、責任者、人事労務担当者にとって、労務管理の知識を押さえておくことは、基礎中の基礎とも言えるものです。

法令や労使間で定めたルールを遵守することはもちろん、事前に労使間において十分な話し合いを行うことや、お互いの信頼関係や尊厳を損ねるような方法を避けることは、労使間の紛争を防止するためにも欠かせないことです。

今回は、「賃金の支払い」「労働条件の変更」に関する法令の概要及び労務管理上参考となる主要な裁判例を分かりやすく解説します。

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1. 賃金の支払い

労働者が安心して生活していくためには、賃金や退職金が確実に支払われることが必要不可欠です。

事業主(会社)、特に実務を担当する人事労務担当者は、賃金の支払い等について、労働基準法に定められたルールを遵守する必要があります。

1.1 確実な賃金の支払い

賃金は、労働者にとって重要な生活の糧であり、確実な支払いが確保されていなければなりません。

労働基準法における「賃金」は、①通貨で、②直接労働者に、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければならないとされています。

これを「賃金支払いの5原則」と言います。

法令の根拠

労働基準法 第24条(賃金の支払)

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2. 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

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2. 退職金・社内預金の確実な支払いのための保全措置

賃金に関係するものとして、「退職金」「社内預金」等があります。

退職金は労働者の退職後の生活に重要な意味を持つものであり、また、社内預金は労働者の貴重な貯蓄です。万一、企業が倒産した場合であっても、労働者にその支払いや還元が確実になされる必要があります。

事業主(会社)は、退職金制度を設けている場合には、確実な支払いのための保全措置を講ずるように努めなければならず、また、社内預金制度を行う場合には、確実な返還のための保全措置を講じなければなりません。

法令の根拠

賃金の支払いの確保等に関する法律 第3条(貯蓄金の保全措置に係る命令)、第5条(退職手当の保全措置を講ずべき額)

法第四条の規定による貯蓄金の保全措置に係る命令は、文書により行うものとする。

賃金の支払いの確保等に関する法律 第5条(退職手当の保全措置を講ずべき額)

法第五条の厚生労働省令で定める額は、次に掲げるいずれかの額以上の額とする。
1. 労働者の全員が自己の都合により退職するものと仮定して計算した場合に退職手当として支払うべき金額の見積り額の四分の一に相当する額
2. 労働者が昭和五十二年四月一日以後において当該事業主に継続して使用されている期間の月数を中小企業退職金共済法第十条第一項に規定する掛金納付月数とみなした場合において、次のイからヘまでに掲げる労働者の区分に応じ、当該イからヘまでに定める額を労働者の全員について合算した額
イ. 昭和五十五年十一月三十日以前から当該事業主に継続して使用されている労働者 掛金納付月数に応じ中小企業退職金共済法施行令の一部を改正する政令(平成三年政令第十四号。以下「平成三年改正中退令」という。)附則別表の第二欄に定める金額の三十分の八の金額、昭和五十六年十二月一日以後の期間に係る掛金納付月数に応じ同表の第二欄に定める金額の三十分の四の金額、平成三年十二月一日以後の期間に係る掛金納付月数に応じ同表の第二欄に定める金額の三十分の十八の金額及び平成五年十二月一日以後の期間に係る掛金納付月数に応じ同表の第二欄に定める金額の三十分の十の金額を合算した額
ロ. 昭和五十五年十二月一日から昭和六十一年十一月三十日までの間において当該事業主に継続して使用されることとなつた労働者 掛金納付月数に応じ平成三年改正中退令附則別表の第二欄に定める金額の三十分の十二の金額、平成三年十二月一日以後の期間に係る掛金納付月数に応じ同表の第二欄に定める金額の三十分の十八の金額及び平成五年十二月一日以後の期間に係る掛金納付月数に応じ同表の第二欄に定める金額の三十分の十の金額を合算した額
ハ. 昭和六十一年十二月一日から平成三年十一月三十日までの間において当該事業主に継続して使用されることとなつた労働者(ヘに掲げる労働者を除く。) 掛金納付月数に応じ平成三年改正中退令附則別表の第二欄に定める金額及び平成五年十二月一日以後の期間に係る掛金納付月数に応じ同表の第二欄に定める金額の三十分の十の金額を合算した額
ニ. 平成三年十二月一日から平成七年十一月三十日までの間において当該事業主に継続して使用されることとなつた労働者(ヘに掲げる労働者を除く。) 掛金納付月数に応じ平成三年改正中退令附則別表の第二欄に定める金額の三十分の四十の金額(当該掛金納付月数が二十四未満である労働者については、四千円に当該掛金納付月数を乗じて得た額)
ホ. 平成七年十二月一日以後において当該事業主に継続して使用されることとなつた労働者(ヘに掲げる労働者を除く。) 掛金納付月数に応じ平成三年改正中退令附則別表の第二欄に定める金額の三十分の五十の金額(当該掛金納付月数が二十四未満である労働者については、五千円に当該掛金納付月数を乗じて得た額)
ヘ. 平成三年四月一日以後において当該事業主に継続して使用されることとなつた労働者であつて、中小企業退職金共済法施行規則(昭和三十四年労働省令第二十三号)第二条第一号に規定する短時間労働者に該当するもの 掛金納付月数に応じ平成三年改正中退令附則別表の第二欄に定める金額の三十分の二十の金額(当該掛金納付月数が二十四未満である労働者については、二千円に当該掛金納付月数を乗じて得た額)
3. 労働者の過半数で組織する労働組合があるときにおいてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときにおいては労働者の過半数を代表する者と書面により協定した額

2.1 休業手当の支払い

事業主(会社)の都合で休業させた場合には、労働者に休業手当を支払い、一定の収入を補償する必要があります。それが休業手当です。

一次帰休など会社側の都合(使用者の責に帰すべき事由)により所定労働日に労働者を休業させた場合には、休業させた日について少なくとも平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければなりません。

法令の根拠

労働基準法 第26条(休業手当)

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

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2.1-1 未払賃金の立替払い制度

「未払賃金の立替払い制度」とは、企業倒産に伴い、賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払いとなっている賃金の一部を、国(独立行政法人労働者健康福祉機構)が事業主(会社)に代わり、立て替えて支払う制度を言います。

立替払いの対象となる未払賃金は、退職日の6ヵ月前以降の未払賃金で、①定期賃金(休業手当を含む)②退職金が対象となります。

但し、立替払いを行った場合、国(独立行政法人労働者健康福祉機構)は、立替払金に相当する金額を、事業主(会社)等へ求償することとされています。

詳細は、最寄の労働基準監督署へお問い合わせください。

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3. 労働条件の変更

次に、労働者にとって重要なもののひとつである「労働条件の変更」の基礎知識です。

事業主(会社)が労働者に対し、労働条件の引き下げ等を行う場合には、法令等で定められた手続き等を遵守するとともに、事前に十分な労使間での話し合い等を行うことが重要です。

3.1 合意による変更

労働契約の変更は、労働者と事業主(会社/使用者)の合意により行うのが原則です。

そのため、労働条件に関しても、労働者と事業主(会社/使用者)が合意すれば、労働条件条件を変更することができます。

法令の根拠

労働契約法 第3条(労働契約の原則)

労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2. 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3. 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4. 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5. 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

労働契約法 第8条(労働契約の内容の変更)

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。


3.2 就業規則による変更

原則、事業主(会社)が一方的に就業規則を変更して、労働者の不利益に労働条件を変更することはできないとされています。

但し、事業主(会社/使用者)が次の要件を満たせば、就業規則の変更によって労働条件を変更することができます。

  • その変更が、以下の事情等に照らして合理的であること
    (1)労働者の受ける不利益の程度
    (2)労働条件の変更の必要性
    (3)変更後の就業規則の内容の相当性
    (4)労働組合等との交渉の状況

その他、就業規則によって労働条件を変更する場合には、内容等が合理的であること、労働者に周知させること等の対応が必要になります。

なお、就業規則の作成や変更に当たっては、事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません。

法令の根拠

労働契約法 第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約法 第10条(就業規則による労働契約の内容の変更)

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働基準法 第90条(作成の手続)

使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2. 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

3.2-1 労働契約法とは?

労働契約法は、労働契約の基本的なルールを定めています。

罰則はありませんが、解雇等に関して、民法の権利濫用法理を当てはめた場合の判断の基準等を規定しており、私法上の効果を明確化するものです。

民事裁判や労働審判は、労働契約法の規定を踏まえて行われます。

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次世代人材 経営者

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企業の未来を担う次世代経営者育成の条件とは?

企業の発展のためには、人材育成や教育に注力しなければいけません。そのため多くの企業では、研修などで実施するプログラムの選定に力を入れています。なかでも次世代の経営者を育てていくためのプログラムは重要だといえるでしょう。そのため現在の経営者や人事担当者は、次世代経営者に必要な条件を把握しておく必要があります。 目次 次世代経営者に必要な心構え 次世代経営者が身につけるべき習慣 次世代経営者がそなえるべき役割 まとめ:次世代経営者に必要な条件 条件1. 次世代経営者に必要な心構え 次世代の経営者を育成する時に ...

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リーダー 次世代人材

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企業にとって必要不可欠な次世代リーダーに必要な要素とは?

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deemie Inc.

2018/12/2

運営会社

社名 ディミー株式会社 住所 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-12 FORECAST新宿AVENUE6階 代表 大澤 一栄 事業内容 ・人事労務コンサルティング ALL HR ・バックオフィスアウトソーシング 社外管理部 Adjust ・HR専門オンラインチャット相談&コンサル web人事部 HR Chat ・オンラインサロン 人事革命SC ・各種セミナー・イベント・講演会・研修の企画・実施 取引銀行  三井住友銀行、みずほ銀行  

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4. 配置転換・出向

最後に、労働条件の要素でもある「配置転換・出向」に関する基礎知識です。

4.1 配置転換

配置転換を命じるには、就業規則等にその根拠等を置いておくことが必要です。

裁判例によれば、配置転換命令の業務上の必要性とその命令がもたらす労働者の生活上の不利益とを比較衡量し、権利濫用に当たるかどうか判断される場合があるとされています。

また、事業主(会社)は、従業員に就業場所の変更を伴う配置の変更を行おうとする場合に、その就業場所の変更によって子育てや介護が困難になる従業員がいるときは、当該従業員の子育てや介護の状況に配慮しなければならないと規定されています。

法令の根拠

育児・介護休業法 第26条(労働者の配置に関する配慮)

事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。

4.1-1 裁判例① 東亜ペイント事件

裁判例として、転勤命令の業務上の必要性について争われた「東亜ペイント事件」においては、転勤命令について、業務上の必要性がない場合または業務上の必要性がある場合であっても、他の不当な動機・目的から転勤命令がなされたとき、もしくは転勤命令が労働者に対し通常受け入れるべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには、当該転勤命令は権利の濫用になるとされました。

4.1-2 裁判例② ベネッセコーポレーション事件

「配置転換命令が無効とされた裁判例」としては、人財部付への配点と降格処分の有効性について争われた「ベネッセコーポレーション事件(東京地裁立川支部 平成24年8月29日判決)」があります。

判決の要旨

人財部付で配属された社員は名刺も持たされず、社内就職活動をさせられる他は、単純労働をさせられたのみであること、人財部付の制度の運用が開始された当初は、配属先が見つかればD評価、見つからなければE評価という運用がなされていたこと、電話にも出ないよう指示されていたこと等を総合すると、人財部付は実質的な退職勧奨の場となっていた疑いが強く、違法な制度であったと言わざるを得ない。

人財部付で他の移動先が見つからなかったメンバーはいずれも業務支援センターに配属されていること、他部署から受注した業務の大半は単純作業であること、業務支援センターのメンバーは社内ネット、イントラネット上の人財部ホルダーやチームサイトにアクセスができない状況にあること、人財部担当者一覧には、業務支援センターの名前、メンバーの氏名等が一切記載されていないこと等を総合すると、到底、人財部の正式な部署と言えるような実態ではなく、人財部付の延長線上にあると言わざるを得ず、違法な実態を引き継いでいると認められる。
そうすると、原告に対する人財部業務支援センターへの配置命令は、人事権の裁量の範囲を逸脱したものであり、その効力はないと解するのが相当である。

上記は、自らの社内での配置先を探させられる他は、単純労働のみを行うような部署へ配属することは、人事権の裁量の範囲を逸脱した違法なものとして無効となる場合があるとする裁判例です。

配置転換・子会社や人材会社等へ出向させ、配置転換先等で自らの次の配置転換先、再就職先、出向先を探させるような業務命令は、労働者が安心して働ける職場環境という観点からは不適切であることから、配置転換等を命じるにあたっては、業務上の必要性やその目的等を十分に踏まえた上で対応していく必要があります。

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4.2 出向

出向(在籍出向)を命じるには、労働者より個別的な同意を得るか、または出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方等が就業規則等によって労働者の利益に配慮して整備されている必要があるとされています。

出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定にかかる事情等に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、その命令は無効となります。

また、転籍については、労働者本人の同意(合意)を要するので、事業主(会社)は一方的に労働者に転籍を命じることはできないとされています。

法令の根拠

労働契約法 第14条(出向)

使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

4.2-1 裁判例① リコー(子会社出向)事件

「出向命令が無効とされた裁判例」としては、「リコー(子会社出向)事件(東京地裁 平成25年11月12日判決)があります。

判決の要旨

・・・固定費削減の具体的な方策のひとつとして、作業手順や人員配置を見直し、それによって生じた余剰人員を外部人材と置き換えること(事業内製化)で人件費の抑制を図ろうとすることには、一定の合理性があるというべきである。・・・事業内製化による固定費の削減を目的とするものである限りは、本件出向命令に業務上の必要性を認めることができるというべきである。
・・・余剰人員の人選が、基準の合理性、過程の透明性、人選作業の慎重さや緻密さに欠けていたことは否めない。・・・余剰人員の人選は、事業内製化を一時的な目的とするものではなく、退職勧奨の対象者を選ぶために行われたとみるのが相当である。
・・・子会社における作業は、立ち仕事や単純作業が中心であり、原告ら出向者には個人の机やパソコンも支給されていない。それまで一貫してデスクワークに従事してきた原告らのキャリアや年齢に配慮した移動とは言い難く、原告らにとって、身体的にも精神的にも負担が大きい業務であることが推察される。・・・本件出向命令は、退職勧奨を断った原告らが翻意し、自主退職に踏み切ることを期待して行われたものであって、事業内製化はいわば結果に過ぎないとみるのが相当である。
・・・本件出向命令は、事業内製化による固定費の削減を目的とするとは言い難く、人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等)を認めることもできない。従って、・・・本件出向命令は、人事権の濫用として無効と言うほかない。

上記は、一貫してデスクワークの仕事をしてきた労働者について、希望退職募集への応募の勧奨を断った段階で、子会社に出向させて単純作業に従事させた場合は、当該出向は、退職勧奨を断った労働者が自主退職することを期待して行われたものであり、業務上の必要性がなく、また、人選の合理性も認めることもできず、権利の濫用にあたり無効となる場合があるとする裁判例です。

このような出向命令は、働く方々が安心して働ける職場環境という観点からは、不適切であることから、出向を命じるにあたっては、こうした裁判例や労働契約法第14条の規定を十分に踏まえたうえで対応する必要があります。

次に読む:
知らなかったはNG!【簡単解説】初めての労務管理(退職、解雇、労働契約の終了編)
知らなかったはNG!【簡単解説】初めての労務管理(安全衛生、健康管理編)
知らなかったはNG!【簡単解説】初めての労務管理(労働契約・就業規則・社会保険・年金編)

 

5. まとめ

いかがでしたでしょうか。

法律が苦手という方もいらっしゃるかと思いますが、労働者の賃金や労働条件の変更等については、法令に則って正しく運用していくことが重要です。

今一度、自社の労務体制を見直す際の参考にしていただければ幸いです。

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