働き方改革 労務

労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|自己申告制とは?罰則はどうなる?

2019年11月1日

2017年(平成29年)1月20日、厚生労働省により、会社(事業主、使用者)には労働時間を適正に把握する責務があること等をまとめた 「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定されました。

働き方改革関連法により2019年4月1日から義務化され、すでに大企業にも中小企業にも適用されています。

今回は、「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」について、簡単に解説していきます。

1.労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が制定された趣旨としては、労働基準法において、労働時間、休日、深夜業等が定められていることから、会社(事業主、使用者)は、労働時間を適正に把握するなど適切な労務管理の責務を有してるとされています。

しかし、現状は労働時間の把握にかかる「自己申告制」(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの)とした不適正な運用のほか、労働基準法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるため、労働時間の適性な把握のために会社(事業主、使用者)が講ずべき措置が具体的に示されました。

 

2.ガイドラインの適用範囲

「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が適用されない労働者についても、健康確保を図る必要がありますので、企業(事業主、使用者)は過重な長時間労働を行わせないようにするなど、適正な労働時間管理を行う責務があります。

 

2.1 対象事業場

労働基準法のうち労働時間にかかる規定(労働基準法第4章)が適用される全ての事業場が対象となります。

 

2.2 対象労働者

労働基準法第41条に定める者※1及びみなし労働時間制が適用される労働者※2(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除くすべての労働者が対象となります。

※1. 労働基準法第41条に定める者:管理監督者が挙げられます。管理監督者とは、一般的には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、役職名にとらわれず職務の内容等から実態に即して判断されます。
※2. みなし労働時間制が適用される労働者とは、以下の労働者を指します。
① 事業場外で労働する者であって、労働時間の算定が困難なもの(労働基準法第38条の2)
② 専門業務型裁量労働制が適用される者(労働基準法第38条の3)
③ 企画業務型裁量労働制が適用される者(労働基準法第38条の4)

 

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3.労働時間の考え方

「労働時間」とは?

会社(事業主、使用者)の指揮命令下に置かれている時間のことを言います。
(平成12年3月9日最高裁第一小法廷判決 三菱重工長崎造船所事件)

企業(事業主、使用者)の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は、労働時間に当たります。

また、労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、労働者の行為が会社(事業主、使用者)から義務づけられたものといえるかどうか等によって判断されることになります。

例えば、次のような時間は、労働時間に該当するとされていますので、注意が必要です。

  • 会社(事業主、使用者)の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
  • 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
  • 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

 

4.労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

ここからは、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」について、具体的に確認していきます。

 

4.1 始業・終業時刻の確認・記録

  • 会社(事業主、使用者)は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。

会社(事業主、使用者)には、労働基準法において、労働時間を適正に把握する責務があるとされています。

労働時間の適正な把握を行うためには、単に1日何時間働いたかを把握するだけでなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を会社(事業主、使用者)が確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要があります。

 

4.2 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

次の(ア)(イ)は、始業時刻や終業時刻を確認・記録する方法として、原則的な方法を示されたものです。

  • 会社(事業主、使用者)が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
  • (ア)使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
    「自ら現認する」とは、会社(事業主、使用者)自ら、あるいは労働時間管理を行う者が、直接始業時刻や終業時刻を確認することを言います。なお、確認した始業時刻や終業時刻については、該当労働者からも確認することが望ましいとされています。
  • (イ)タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
    タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基本情報とし、必要に応じて、例えば使用者の残業命令書及びこれに対する報告書など、使用者が労働者の労働時間を算出するために有している記録とを突き合わせることにより確認し、記録することが求められます。
    また、タイムカード等の客観的な記録に基づくことを原則としつつ、自己申告制も併用して労働時間を把握している場合には、次の「4.3 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置」に準じた措置をとる必要があります。

 

4.3 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置

自己申告による労働時間の把握については、あいまいな労働時間管理となりがちであるため、やむを得ず、自己申告制により始業時刻や終業時刻を把握する場合に講ずべき措置を明らかにしています。

「4.2 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法」によることなく、自己申告制により行わざるを得ない場合、以下の措置を講ずることが求められています。

  • 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。

労働者に対して説明すべき事項としては、本ガイドラインで示した労働時間の考え方、自己申告制の具体的内容、適正な自己申告を行ったことにより不利益な取扱いが行われることがないこと、などがあります。

 

  • 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。

労働時間の適正な自己申告を担保するには、実際に労働時間を管理する者が「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の内容を理解する必要があります。

説明すべき事項としては、労働者に対するものと同様に、「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」で示した労働時間の考え方や、自己申告制の適正な運用などがあります。

 

  • 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。特に、入退場記録パソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

会社(事業主、使用者)は「自己申告制」により労働時間が適正に把握されているか否かについて定期的に実態調査を行い、確認することが望ましいとされています。特に、労働者が事業場内にいた時間と、労働者からの自己申告があった労働時間との間に著しい乖離が生じているときは、労働時間の実態を調査することが求められます。

また、「自己申告制」が適用されている労働者や労働組合等から、労働時間の把握が適正に行われていない旨の指摘がなされた場合などにも、このような実態
調査を行う必要があります。

 

  • 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、会社(事業主、使用者)の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。

会社(事業主、使用者)は、自己申告による労働時間の把握とタイムカード等を併用し、自己申告された労働時間とタイムカード等に記録された事業場内にいる時間に乖離が生じているときに、その理由を報告させている場合、その報告が適正に行われていないことによって、労働時間の適正な把握がなされなくなるおそれがあるため、その報告の内容が適正か否かについても確認する必要があります。

 

  • 「自己申告制」は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものであると言えます。
    ①このため、会社(事業主、使用者)は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。
    ②また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間にかかる事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
    ③さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

会社(事業主、使用者)は、労働者の適正な自己申告を阻害する措置を講じてはならなのはもちろんのこと、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となる事業場の措置がないか、また、労働者等が慣習的に労働時間を過小に申告していないかについても確認する必要があります。

 

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4.4 賃金台帳の適正な調製

  • 会社(事業主、使用者)は、労働基準法第108条及び労働基準法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。

また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金に処されます。

 

4.5 労働時間の記録に関する書類の保存

  • 会社(事業主、使用者)は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならないこと。

労働基準法第109条においては、「その他労働関係に関する重要な書類」について保存義務を課していますが、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類もこれに該当し、3年間保存しなければならないことを明らかにしたものです。

具体的には、会社(事業主、使用者)が自ら始業・終業時刻を記録したもの、タイムカード等の記録、残業命令書及びその報告書、労働者が自ら労働時間を記録した報告書などが該当します。

なお、保存期間である3年間の起算点は、それらの書類ごとに最後の記載がなされた日となります。

 

4.6 労働時間を管理する者の職務

  • 事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。

人事労務担当役員、人事労務担当部長等労務管理を行う部署の責任者は、労働時間が適正に把握されているか、過重な長時間労働が行われていないか、労働時間管理上の問題点があればどのような措置を講ずべきかなどについて把握、検討すべきであることが明らかにされたものです。

 

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4.7 労働時間等設定改善委員会等の活用

  • 会社(事業主、使用者)は、事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。

自己申告制により労働時間の管理が行われている場合等においては、必要に応じ、労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状の問題点や解消策等について検討することが望まれるとされています。

 

5.まとめ

働き方改革関連法の施行により、適正な労働時間の把握は、会社(事業主・使用者)にとっても労働者にとっても重要なことだと認識を新たにする必要があります。

労働者においては、会社に負担をかけないつもりで、会社に内緒で労働をした場合でも、PCなどの記録から労働をしていたことが判明した場合、会社側が労働時間の把握ができていないとみなされる可能性もあります。

過少申告はやめて、労働時間を適正に申告することが必要になっています。

 

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