希望退職制度・早期退職優遇制度・選択定年制度の違いと会社のデメリットは?+判例見解付き

昨今では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う景気低迷から脱却しつつあります。

2023年(令和4年)1月27日、東京商工リサーチによる上場企業の「早期・希望退職」募集企業数について、年間で募集人数が1万人を切ったのは、2018年(平成30年)(4,126人)以来、4年ぶり数字となりました。

今回は、企業・人事側の目線から、「希望退職制度」「早期優遇退職制度」の違い、判例による見解、「希望退職制度」「早期優遇退職制度」のデメリットについて、分かりやすく簡単に解説していきます。

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1. 「早期退職・希望退職」募集企業の調査結果

2023年(令和5年)1月27日、東京商工リサーチにより、上場企業の「早期・希望退職」募集企業の調査結果が発表されました。

<「早期・希望退職」募集企業前年比2倍超に急増>

(出典:東京商工リサーチ

2022年(令和4年)募集人数は、人数を公表した31社(若干名は除く)の合計5,780人で、2021年(令和3年)通年(1万5,892人)から63.6%減と大幅に減少した。募集人数が1万人を切ったのは、2018年(平成30年)(4,126人)以来、4年ぶり。前年5社だった1,000人以上の大型募集は1社に減少。100人未満の募集(若干名は除く)が21社(構成比55.2%)と全体の半数を占め、比較的規模の小さな募集が多い結果となりました。

また、業種別では、コロナ禍の影響が大きく、2020年から2年連続で最多だったアパレル・繊維製品(4社)を抜いて、機械(5社)が最多となった。このほか、電気機器(4社)や医薬品(3社)など、コロナ前に多かった業種が上位に入り、外食(前年4社)はゼロとなります。
また、本業の落ち込みに加え、百貨店やホテルなどグループ事業も不振に陥った鉄道・航空(前年5社)が2社、観光(前年4社)も2社に減り、コロナ禍での急増業種は募集が一巡しました。

募集人数は、最多が富士通で、50歳以上の幹部社員(定年後再雇用含む)を対象に実施した「セルフ・プロデュース支援制度」に3,031人の応募があった。1,000人以上は富士通の1社(前年5社)のみ。次いで、訪問販売事業からの撤退を公表したジャノメが300人(募集予定人数)、国内の複数のグループ会社が対象となった日本ペイントホールディングスの271人の順です。

商工リサーチの担当者は、「今後は、企業の規模や業績にかかわらず、小規模の募集を中心に人員削減に取り組む企業が出てくるとみられる。」と指摘しています。

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2. 希望退職制度

希望退職制度」とは、労働者の自由意思による自発的な退職の申込みを誘引することを言いますが、一般的には業績等の落ち込みによる経営難を回避するための固定費削減を目的とした人員整理の手段として整理解雇に先だって行われることが多い雇用調整の手段です。

もし、退職希望者がいない、もしくは足りない場合は会社側から特定の従業員に対して希望退職を打診するケースも多く見受けられます。

なお、企業においては、雇用調整にあたって希望退職の募集等を行わずにいきなり整理解雇を行うと解雇回避努力義務を怠ったとして無効とされる場合がありますので注意が必要です。

また、希望退職制度は、事業主の都合による離職のため、原則「会社都合退職」として扱われます。

会社都合退職の場合、雇用保険では「特定受給資格者」として扱われ、「希望退職制度」にて退職した社員は、7日間の待機期間の後すぐに失業手当を受け取ることができます。

給付日数は年齢と被保険者期間によって細かく区分されており、最長で11ヶ月間(45歳上60歳未満で、被保険者期間が20年以上ある場合)受け取ることも可能です。

2.1 判例による見解

希望退職」の法的性質については、使用者(企業)による合意解約の申し込みであり、これに対する労働者の応募の意思表示が使用者に到達すれば、その時点で合意退職が成立するとの見解もあるようですが、一般的に、希望退職募集は、労働契約の合意解約に向けて使用者が労働者に対して申し込みの誘引をなしたものであり、労働者が希望退職を申し出れば、これが合意解約の申込みであり、使用者の承諾で合意解約が成立すると考えるべきだとされています(津田鋼材事件・大阪地判平成11年12月24日参照)。

従って、使用者の承諾を得ずに退職した場合は、希望退職手続きに沿った退職とはいえず、割増退職金などの特典は受けられないことになります(アラビア石油事件・東京地判平成13年11月9日など)。

希望退職に応じるかどうかは、あくまでも労働者の自由であって、社員がそのまま会社に留まりたいと思うのなら、応じる必要のないことは前提要件として存在します。これに対し、使用者が希望退職に応じるように圧力をかけたり、応募しなかったら不利益に扱うなどと脅したりした場合には、実質的に解雇と認められたり、強迫による意思表示として取消が可能となったり(民法第96条)、不法行為に当たるとして損害賠償の責任が認められることになります(下関商業高校事件・最一小判昭和55年7月10日)。

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3. 早期退職優遇制度(早期退職制度、選択定年制度)

早期退職優遇制度」は、定年を何歳にするかを企業と本人との協議によって決定する制度で、一定の年齢に達すると自ら選択できる会社の人事制度であることから、別名「選択定年制度」と言われたりもします。

「希望退職制度」と比較して特徴的なのは、組織の人員構成を整えたり、従業員の人生の選択肢を広げたりする等、社内の年代のバランスを整える目的で退職希望者を募集する人事制度であるため、企業の業績によらず定期的に実施されることが多いものです。

そのため、「早期退職優遇制度」の利用者に対しては通常の定年退職時の退職金よりも増額して受け取れるといった優遇措置が取られることも多く、人員整理等を目的としている期間限定の「希望退職制度」と違って、常時、誰でも利用できるのが早期退職制度の大きな特徴です。

また、「早期退職優遇制度」による退職は、自己都合または定年退職として扱われるケースが多く、「希望退職制度」の会社都合退職と比較すると、失業中に受給できる失業保険の給付日数に影響があります。

「早期退職優遇制度」は、略して「早期退職制度」とも言われることから「希望退職制度」とも混同されがちですが、「早期退職制度」と「希望退職制度」は趣旨が異なりますので、注意が必要です。

なお、「早期退職優遇制度」が人事制度として常時設置されており、労働者本人からの自発的な申込により適用される場合は、「自己都合退職」として扱われるため、雇用保険における給付制限の対象となります。

自己都合退職の場合、雇用保険では「一般の離職者」として扱われ、ハローワークに申請後、基本手当(いわゆる失業手当)を受け取れるようになるまで、7日間の待機期間に加え、最長3ヵ月間の給付制限があり、給付日数も被保険者期間に応じて約3~5ヵ月間と、「会社都合退職」と比較して短期間の支給となります。

3.1 判例による見解

『「早期退職優遇制度」について会社側の承諾を要件とした大和銀行(退職支援金)事件において、裁判所は、「本制度の利用について被告(会社側)の承諾を要件とした趣旨が、退職により被告の業務の円滑な遂行に支障が出るような人材の流出という事態を回避しようというものであって、それ自体不合理な目的とは言えない。

そして、承諾が要件となっても、被告行員にとっては、不承諾の場合には、従前の退職金を受領して退職するか、雇用契約を継続するかという選択は可能であり、また、承諾となる前であれば、申し込みを撤回することも可能であって、いずれにしても従前の雇用条件の維持は可能であることから行員に著しい不利益を課すものとは言えない。

従って、本制度について承諾という要件を課すことが公序良俗に反するものとはいえない。』と判示しています(大阪地判平成12年5月12日)。

 

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社名 ディミー株式会社 住所 〒160-0022 東京都新宿区新宿2-5-12 FORECAST新宿AVENUE6階 代表 大澤 一栄 事業内容 ・人事労務コンサルティング ALL HR ・バックオフィスアウトソーシング 社外管理部 Adjust ・HR専門オンラインチャット相談&コンサル web人事部 HR Chat ・オンラインサロン 人事革命SC ・各種セミナー・イベント・講演会・研修の企画・実施 取引銀行  三井住友銀行、みずほ銀行  

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4. 希望退職制度や早期優遇退職制度のデメリット

「希望退職制度」や「早期優遇退職制度」を利用するにあたり、人事としては次のデメリットも認識しておく必要があります。

一般的に、「希望退職制度」や「早期優遇退職制度」を利用する人の共通点として、「辞めて欲しくない優秀な社員が辞めてしまう」というリスクがあります。

特に「希望退職制度」においては、主には経営難等により人件費を削減する目的で実施されるものですが、経営としては「優秀な人材を残し、優秀でない人材を流出させたい」という希望はあるものの、能力が高い人ほど再就職の可能性が高く、次の職場でも評価されることが多いため、今の会社に見切りをつけてステップアップとして「希望退職制度」や「早期優遇退職制度」を利用する人も少なくないようです。

反対に、能力が低く社内での評価も優れない人ほど、再就職の可能性が低いため、「希望退職制度」や「早期優遇退職制度」は利用せず、会社にしがみつく人も多いのが現状です。

業績が悪化してから行われる「希望退職制度」はリストラの意味合いが強いですが、平常時から人事制度として「早期優遇退職制度」を導入している企業の場合は、会社として魅力のある選択肢を提示することで良い人材を集めやすくなるというメリットもありますので、会社として、人事としてどのような施策を行っていくのかをきちんと整理しておくことが望まれます。

 

5. まとめ

新型コロナウイルス感染症の影響による希望退職・早期退職の募集は、今後落ち着いていきそうな気配ですが、経営者や人事担当者としては、このあたりの制度設計~運用までは、しっかり組み立てておく必要があります。

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