1. 法定労働時間とは
「法定労働時間」とは、労働基準法によって原則「1日8時間・週40時間」と定められた、労働時間の上限を指します。
これによると、使用者は原則として、休憩時間を除き1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけない、ということになります。
この時間を超過する場合は「36(サブロク)協定」と呼ばれる労使協定の締結が必要で、また、法定労働時間を超える労働時間に対して、使用者は割増賃金を支払わなければなりません。
しかし法定労働時間のルールには例外が多いのも事実。
ここからは、法定労働時間に関する労働基準法のルールや残業代の計算方法などを詳しく解説します。労務管理で重要な基礎知識を押さえておきましょう。
1.1 法定労働時間と所定労働時間の違い
まず「法定労働時間」と混同するものとしてよく挙がるのが「所定労働時間」。
「所定労働時間」とは、労働基準法上の「法定労働時間」とは別に、使用者が独自に定める労働時間の上限です。“独自に”とは言っても、使用者が自由に設定できるわけではなく、所定労働時間は“法定労働時間の範囲内”で定めなければならないというルールがあります。
この所定労働時間による影響は「残業」にもおよびます。残業は「法定内残業」と「法定外残業(時間外労働)」の2種類に分かれることになり、残業代の計算方法にも違いが生じます。それぞれの違いについては、後記の説明をご覧ください。
1.2 月平均所定労働時間とは
労働時間の考え方に、所定労働時間とは別に「月平均所定労働時間」というものもあります。これは、年間の所定労働時間を12ヵ月で割ることにより算出される1ヵ月の労働時間で、実際に残業代を計算する際に用いられるものです。
毎月の基本給は昇給がない限り一定である一方、1ヵ月の日数は31日まであったり、30日しか無かったりと、月ごとに異なります。当該月の実日数を用いると、残業代計算の基礎となる1時間当たりの基礎賃金(後述)が毎月違うことになってしまいます。
そこで、どの月でも残業代の計算を一定にするべく設けられた考え方が「月平均所定労働時間」なのです。実際の残業代を計算する際には、以下の計算式によって算出される月平均所定労働時間を用いて、1時間当たりの基礎賃金を求めます。
月平均所定労働時間=(365日-1年間の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12ヵ月
(例) 1年間の休日日数が125日、1日の所定労働時間が8時間の場合 → 月平均所定労働時間=240日×8時間÷12ヵ月=160時間 |
なお、月平均所定労働時間が問題となるのは、1時間当たりの基礎賃金を計算する場合のみです。所定労働時間を超えた場合(残業代の発生を判断する際)には、引き続き1日単位の「所定労働時間」が基準となることに留意してください。
1.3 休日・休憩時間の原則
「法定労働時間」を正しく理解するには、休日・休憩時間についてのルールも理解しておかなくてはなりません。労働基準法では、過重な労働を防ぐ目的で、法定労働時間とは別に、休日と休憩時間に関するルールも定めています。
1.3-1 休日に関するルール
労働基準法35条1項、2項によると、使用者は労働者に対して、原則として少なくとも毎週1日以上の休日を与えるか、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならない、と定めています。
この労働基準法のルールに基づいて与えられる休日が「法定休日」です。実際は、週に2日以上の休日を設定する会社が多いですが、法定休日はあくまでも週1日のみ。法定休日でない休日は「法定外休日」として取り扱われます。この法定休日に労働者を働かせるには「36(サブロク)協定」と呼ばれる労使協定の締結をし、休日労働についてのルールを定め、そのルールの範囲内で休日労働を指示しなくてはなりません。
また、この休日労働には、通常の賃金に対して35%以上の割増賃金が発生します。これに対し“法定外休日における労働”は、休日労働ではなく時間外労働にあたり、割増賃金率も異なります。(詳しくは後述)
1.3-2 休憩に関するルール
労働基準法34条1項によると、使用者は労働者に対して、労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を与えなければならない、と定めています。
その他、休憩に関して定められている主なルールは以下です。
- 休憩時間は原則として、全労働者に対して一斉に与える必要がある(同条2項本文)。ただし労使協定で合意すれば、バラバラに休憩時間を与えることも可能(同項ただし書)。
- 労働者は休憩時間を自由に利用することができる(同条3項)。
2. 法定労働時間を超えて働かせるには「36協定」の締結が必須
ここまで、法定労働時間について、またそれに関連する規定について解説してきました。ここからは、法定労働時間を超えて労働者を働かせたい場合に必要な締結「36(サブロク)協定」について解説していきます。
2.1 「36協定」とは?
36協定とは、時間外労働についてのルールを定める労使協定のことで、具体的には、労働基準法第36条に定められた「時間外・休日労働に関する協定書」を指します。法定労働時間を超えて働かせる場合には、予め使用者と労働者代表との間の 協定締結、労働基準監督署への届け出が必要です(労働基準法36条1項)。
以下のケースに当てはまる場合、36協定の届出が必要となります。
- 「1日8時間」「1週40時間」の法律で定められた法定労働時間を超えて、時間外労働をさせる場合
- 「毎週少なくとも1回」「4週間を通じて4回以上」の法定休日に休日労働をさせる場合
36協定は、所轄の労働基準監督署に届け出て初めて効力を持ちます。また、一部の労働者に限り、法定労働時間を超えた労働をさせるような場合でも、36協定は必須です。
2.2 36協定にもとづく時間外労働の上限
36協定を締結したからといって、使用者が労働者に際限無く時間外労働を指示できるわけではありません。36協定では原則として、以下の上限を超える時間外労働を定めることはできないとされています(労働基準法36条4項)。
<36協定に基づく時間外労働の上限(原則)>
- 1ヵ月につき45時間
- 1年につき360時間
さらに、時間外労働と休日労働の合計が、1年を通して常に以下である必要があります。
- 時間外労働と休日労働の合計が、月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計が、「2ヵ月平均」「3ヵ月平均」「4ヵ月平均」「5ヵ月平均」「6ヵ月平均」のそれぞれがすべて、1ヵ月あたり80時間以内
2.3 36協定の特別条項とは?
ただ、上限を設けていても、繁忙期などで業務負荷が集中する際は、どうしても月45時間・年360時間となる時間外労働の上限を超えた残業が発生してしまうこともあるでしょう。こうした場合を想定し、例外措置として許されているのが「36協定の特別条項」。
臨時的に前述した上限を超えて労働させることができる旨を定めた「特別条項付きの36協定」を届け出ることにより、上限を超えた時間外労働が可能に。ただしこの特別条項による場合も、以下の上限を超えることはできません(同条5項、6項)。
<36協定に基づく時間外労働の上限(臨時)>
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が、月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計が、「2ヵ月平均」「3ヵ月平均」「4ヵ月平均」「5ヵ月平均」「6ヵ月平均」のそれぞれがすべ て、1ヵ月当たり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6回(6ヵ月)が限度
3. 所定労働時間・法定労働時間と残業代の関係性・計算方法
ここからは法定労働時間と残業代の関係や、残業代の実際の計算方法についても紹介していきます。
3.1 法定労働時間内の残業|割増賃金は発生せず
法定労働時間と所定労働時間、および法定内残業と法定外残業(時間外労働)については前述しましたが、所定労働時間と法定労働時間は、残業代を計算する際の重要な基準となります。
「所定労働時間」が1日8時間、週40時間以内の労働者の場合、通常の労働時間を超えて残業をしたとしても、それが法定労働時間内であれば、「法定内残業」と呼ばれ、時間外労働の割増賃金が発生しません。
また、例えば「所定労働時間」が1日7時間と定められている会社で、8時間働いた場合、1時間分が「法定内残業」にあたります。しかし、この1時間分は“残業”ではありますが、労働基準法上の「時間外労働」にはあたらず、通常の賃金が支払わ れます。
3.2 法定労働時間を超える残業|割増賃金が発生
一方、1日8時間・週40時間の「法定労働時間」を超える残業に対しては、労働基準法に従った割増賃金が支払われます(労働基準法37条1項)。
通常の時間単価を基準の1.0とした場合の割増率は次の通りです。
- 休憩時間を除き、1日8時間、1週間につき40時間を超えた時間分(法定外時間外労働):1.25倍
- 法定外時間外労働が月60時間を超えた場合に、60時間を超えた時間分:1.5倍
- 法定休日に労働させた時間:1.35倍 ・深夜(22時~翌5時)の時間帯に労働させた時間:0.25倍
3.3 残業代の計算方法
残業代の基本の計算方法は、法定内残業と法定外残業とで異なります。それぞれの計算式を見ていきましょう。
<法定内残業の場合>
1時間あたりの基礎賃金に法定内残業時間をかけて算出します。
法定内残業の残業代 = 1時間あたりの基礎賃金 × 法定内残業時間 |
<法定外残業の場合>
割増賃金が発生するため、残業時間にさらに割増賃金率をかけます。
法定外残業の残業代 = 1時間あたりの基礎賃金 × 法定外残業時間 × 割増賃金率 |
例えば、以下の労働者がいたとします。
- 1時間当たりの基礎賃金は2,500円
- 所定労働時間は週35時間(月~金、7時間×5日)
- 月曜から金曜まで、5日間にわたって各9時間労働した
この5日間の間に、毎日2時間の残業が発生しています。内訳は「法定内残業」と「法定外残業(時間外労働)」がそれぞれ1時間ずつです。従って、この週における「法定内残業」は計5時間、「法定外残業(時間外労働)」も計5時間になります。
<法定内残業の残業代>
=2,500円×5時間
=12,500円
<法定外残業(時間外労働)の残業代>
=2,500円×1.25×5時間
=15,625円
<残業代の合計>
=12,500円+15,625円
=28,125円
上記はあくまでも基本の計算式です。実際の残業代の計算の際には、それぞれの労働者に適用されている変形労働時間制を考慮しなければなりません。
例えば、フレックスタイム制を導入している労働者の場合、単純に1日8時間を超えただけでは法定外残業とはみなされず、清算期間と総労働時間から残業時間を計算する必要があります。また、裁量労働制を採用している労働者の場合「みなし労働時間」を労使協定によって定めることになり、原則として残業代は発生しません。ただし、みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合には、割増賃金を踏まえた給与計算が必要となるため注意が必要です。
4. 違法な時間外労働を課している場合の罰則は?
法定労働時間を超える労働をさせているにもかかわらず、36協定の締結・届出がない企業や、時間外労働の上限規制を超えて労働させている企業は、労働基準法違反とみなされ、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。さらに、労働基準法違反となった企業は、悪質な場合は厚生労働省によって企業名が公表されることも。
法定労働時間の管理は厳格な取り扱いが必要です。
5. さいごに
労働者にとって最も重要事項である、「賃金」の計算にも大いに関わってくる「法定労働時間」。
本記事で知識を整理して、円滑な労務管理を行っていきましょう。
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