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副業・兼業に関する企業側・労働者側のメリット・留意点とは?裁判例も簡単解説|副業・兼業の促進に関するガイドライン

労働者の働き方に関するニーズのうち、副業・兼業を希望する労働者は年々増加傾向にあり、「自分がやりたい仕事」「スキルアップ」「資格の活用」「十分な収入の確保」など、理由は様々です。

一方で、企業においては、副業・兼業を認めるにあたり課題・懸念が払拭できず、導入に踏み切れない企業も多いようです。

このような企業の課題を解決するため、今回は、過去の副業・兼業に関する裁判例なども踏まえて、「企業における副業・兼業の課題・懸念」にフォーカスして、分かりやすく解説していきます(出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」)。

1.副業・兼業の現状

副業・兼業を希望する労働者は年々増加傾向にあります。副業・兼業を行う理由は様々で、主には以下の理由が挙げられます。

  • 自分がやりたい仕事である
  • スキルアップ
  • 資格の活用
  • 十分な収入の確保 等

しかし、副業・兼業を認めるには次のような課題・懸念があるため、未だに副業・兼業に踏み切れない企業も多いようです。

  • 自社での業務がおろそかになること
  • 情報漏洩のリスクがあること
  • 競業・利益相反になること
  • 副業・兼業にかかる就業時間や健康管理の取り扱いルールが分かりにくい 等

裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、次のような場合であると考えられています。

  • 労務提供上の支障となる場合
  • 企業秘密が漏洩する場合
  • 企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
  • 競業により企業の利益を害する場合

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2.副業・兼業のメリットと留意点

副業・兼業にあたっては、企業と労働者のそれぞれにメリットと留意すべき点があります。

これからご紹介するメリットと留意点については、厚生労働省が「副業・兼業を認めている企業及び副業・兼業をしている労働者」から聴取した意見等を踏まえて例示しているものですので、企業や労働者それぞれの状況によって多少異なることもあります。

 

2.1 企業側のメリットと留意点

まずは、企業側のメリットと留意点について見ていきます。

企業側のメリット

  • ① 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
  • ② 労働者の自律性・自主性を促すことができる。
  • ③ 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
  • ④ 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

企業側の留意点

  • 必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという課題・懸念への対応が必要です。

 

2.2 労働者側のメリットと留意点

次に、労働者側のメリットと留意点について見ていきます。

労働者側のメリット

  • ① 離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。
  • ② 本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。
  • ③ 所得が増加する。
  • ④ 本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる。

労働者側の留意点

  • ① 就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要である。
  • ② 職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を意識することが必要である。
  • ③ 1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない場合があることに留意が必要である。

副業・兼業は、社会全体としてみれば、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もあると考えられています。

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3.副業・兼業に関する裁判例

裁判例においては、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、労務提供上の支障となる場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合と考えられています。

 

3.1 マンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)

概要

運送会社が、準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことについて、後2回については不許可の理由はなく、不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容(慰謝料のみ)された事案。

判決抜粋

労働者は、勤務時間以外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり、使用者は、労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許され(ママ)なければならない。

もっとも、労働者が兼業することによって、労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり、使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから、このような場合においてのみ、例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。

 

3.2 東京都私立大学教授事件(東京地判平成20年12月5日)

概要

教授が無許可で語学学校講師等の業務に従事し、講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず、解雇無効とした事案。

判決抜粋

兼職(二重就職)は、本来は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるから、兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である。

 

3.3 十和田運輸事件(東京地判平成13年6月5日)

概要

運送会社の運転手が年に1、2回の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇に関して、職務専念義務の違反や信頼関係を破壊したとまでいうことはできないため、解雇無効とした事案。

判決抜粋

原告らが行った本件アルバイト行為の回数が年に1、2回の程度の限りで認められるにすぎないことに、証拠及び弁論の全趣旨を併せ考えれば、原告らのこのような行為によって被告の業務に具体的に支障を来したことはなかったこと、原告らは自らのこのような行為について会社が許可、あるいは少なくとも黙認しているとの認識を有していたことが認められるから、原告らが職務専念義務に違反し、あるいは、被告との間の信頼関係を破壊したとまでいうことはできない。

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4.副業・兼業に関する企業側の留意点

裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当であると考えられます。

副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められます。

また、実際に副業・兼業を進めるにあたっては、労働者と企業双方が納得感を持って進めることができるよう、労働者と十分にコミュニケーションをとることが重要です。

 

4.1 就業時間の把握

労働基準法第38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含むとされています(労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号))。

  • 企業(事業主、使用者)は、労働者が労働基準法の労働時間に関する規定が適用される副業・兼業をしている場合、労働者からの自己申告により副業・兼業先での労働時間を把握することが考えられます。
  • 個人事業主や委託契約・請負契約等により労働基準法上の労働者でない者として、または、労働基準法上の管理監督者として、副業・兼業を行う者については、労働基準法の労働時間に関する規定が適用されません。

なお、この場合においても、過労等により業務に支障をきさないようにする観点から、対象労働者の自己申告により就業時間を把握すること等を通じて、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましいとされています。

補足

一般の労働者として他の会社に雇われる形態で副業・兼業をする場合、労働基準法の労働時間に関する規制(原則1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないこと等)は通算して適用されます。

また、事業主は、自らの使用する労働者が実際に働いた時間を把握することとされています。

  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)
    第38条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
  • 昭和23年5月14日 基発第769号
    「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む。

事例

事業主Aのもとで働いていた労働者が、後から事業主Bと労働契約を締結し労働時間を通算した結果、法定時間外労働に該当するに至った場合、事業主Bに法定の割増賃金の支払い義務があります。

(後から契約を締結する事業主は、その労働者が他の事業場で労働していることを確認したうえで、契約を締結すべきとの考え方によるものです。)

事業主A:所定労働時間1日5時間 + 事業主B:所定労働時間1日4時間 の場合

事業主Bにおいて、法定時間外労働が1時間発生します。
(事業主A:5時間+事業主B:4時間-1日の法定労働時間:8時間=法定時間外労働:1時間)

 

4.2 健康管理

企業(事業主・使用者)は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、労働安全衛生法第66条等に基づき、健康診断等を実施しなければならないとされています。

※ なお、労働安全衛生法第66条に基づく一般健康診断及び第66条の10に基づくストレスチェックは、常時使用する労働者(常時使用する短時間労働者を含む。)が実施対象となるため、注意が必要です。

この際、常時使用する短時間労働者とは、短時間労働者のうち、以下のいずれの要件をも満たす者となります(平成26年7月24日付基発0724第2号等抜粋)。

  • 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)
  • 1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の4以上である者
  • 上記措置の実施対象者の選定にあたって、副業・兼業先における労働時間の通算は不要。但し、使用者が労働者に副業・兼業を推奨している場合は、労使の話し合い等を通じ、副業・兼業の状況も踏まえて、健康診断等の必要な健康確保措置を実施することが適当。

また、副業・兼業者の長時間労働や不規則な労働による健康障害を防止する観点から、働き過ぎにならないよう、例えば、自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いの中で、時間外・休日労働の免除や抑制等を行うなど、それぞれの事業場において適切な措置を講じることができるよう、労使で話し合うことが適当であるとされています。

補足

企業(事業主・使用者)は、上記の健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者や、ストレスチェックの結果高ストレスと判定され医師による面接指導を受けた労働者については、労働安全衛生法第66条の4、第66条の5及び第66条の10に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について医師等の意見を聴取し、必要があると認めるときは当該労働者の実情を考慮して、以下①~④の適切な措置を講じなければなりません。

  • ① 就業場所の変更
  • ② 作業の転換
  • ③ 労働時間の短縮
  • ④ 深夜業の回数の減少 等

 

4.3 安全配慮義務

労働者の副業・兼業先での働き方に関する企業の安全配慮義務について、現時点では明確な司法判断は示されていないが、使用者は、労働契約法第5条に、安
全配慮義務(労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすること)が規定されていることに留意が必要です。

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5.副業・兼業に関する企業の対応方法

副業・兼業に関する企業の対応方法について、見ていきます。

 

5.1 副業・兼業導入前の準備

副業・兼業を導入するにあたっては、副業・兼業を認める範囲や手続等について、各企業において自社の状況を踏まえながら、労使で十分に話し合って決めていく必要があります。

検討事項:例

  • ① どのような形態の副業・兼業を認めるか
    (例:業務内容、就業日、就業時間、就業時間帯、就業場所、就業期間、対象者の範囲)
  • ② 副業・兼業を行う際の手続
    (例:上司や人事担当者の事前の承認や事後の届出の有無)
  • ③ 副業・兼業の状況把握するための仕組み
    (例:上司や人事担当者への報告)
  • ④ 副業・兼業の内容を変更する場合の手続き

副業・兼業者の長時間労働や不規則な労働による健康障害を防止する観点から、働き過ぎにならないよう、自社での就業と副業・兼業先での就業との兼ね合いの中で、時間外・休日労働の免除や抑制等を行うなど、各企業において措置を講じることができるか検討することが望ましいとされています。

 

5.2  労働者から副業・兼業の申し出があったら

労働者から副業・兼業の申し出があった場合、副業・兼業の内容について確認しましょう。

  • 労働者から副業・兼業の申し出があった場合は、上司や人事担当者は、その副業・兼業が競業にあたらないか、いつ、どこで副業・兼業を行うのか、どの程度の就業時間、業務量になるのかなどを確認が必要
  •  その際、労働者に対し、必要以上の情報を求めることがないよう留意が必要
  • 現在の業務に支障がない場合、副業・兼業を認めていくことが望ましいとされる

 

5.3 労働者が副業・兼業を始めたら

労働者が副業・兼業を始めたら、企業としては労働者の健康状態について確認・留意することが求められます。

企業と労働者がコミュニケーションをとり、労働者が副業・兼業による過労によって健康を害したり、現在の業務に支障を来したりしていないか、確認することが望ましいとされています。

 

6.まとめ

働き方改革により、多様な働き方が推進され、副業・兼業を認める企業も増えてきていますが、労働時間の割増賃金や健康管理、安全衛生などの義務も発生することから、副業・兼業の導入は限定的に行っている企業も多いようです。

副業・兼業によるメリット・留意点などを踏まえ、企業風土や企業の事情に合わせて、よくよく検討の上、導入していくことをおすすめします。

 

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